ダイアログ・イン・ザ・ダーク

真っ暗闇の空間を、見ず知らずの人と一緒に、全盲の人のガイドで歩くというイベント。
外苑前と千駄ヶ谷の間あたり。行きは千駄ヶ谷駅から外苑西通りを歩いた。ジャガーの販売店の先に看板があって地下に降りる。
以下、多分にネタバレになるけど、こういうイベントは事前情報が少ないほうが楽しめると思う。
私が参加した回は6人で、他のメンバは男女連れと小学生の親子と女性一人だった。親子以外の3人は同じ2,30代。そして視覚障害者のアテンドは女性。某フィギュアの女性選手の名前。
みんな自己紹介で自分の呼び名を名乗るわけだけど、そこであえて下の名前を使ってみた。普段名字で呼ばれることが多いから、他の人から名前で呼ばれると新鮮。なにより、今までの生涯で一番、自分の下の名前を連呼したと思う。そういう意味でも違う世界だった。
順を追って書くと、まず何も見えない空間では声を出すことが大事。しゃがむのも「しゃがみます」って言わないと周りにはわからないし、わかったという意思表示も「はい」とか「うん」とか言わないとわからない。何より声を出さないと、自分の存在自体が伝わらない。
そして、ただ声を出すだけじゃなくて、名前を名乗らないと誰が話しているのかわからない。だから「太郎、しゃがみます」とか「花子ここです」とか言う必要がある。ただこれは名乗らなくても声質でわかる場合もある。アテンドの人はすぐにわかってた気がした。私は女性2人の区別に迷った。もっと長い時間があれば、もっと声質とその人のキャラクタの結びつきがついたと思う。
歩く時は、視覚障害者が使う白い杖を持つ。みぞおちくらいの高さの杖を選んで、利き手で持つ。上からこぶし二つ分くらい下を、鉛筆を持つように。右、左、と地面をたたく。地面の固さ、柔らかさはわかったけど、点字ブロックのぎざぎざは正確にはわからなかった気がする。いま振り返ると、あんまり使いこなせてなかったかな。
利き手と反対の手、左手は甲を前に出して歩く。他人の背中に触ったり、触られたりするから、その度に「太郎、背中触りました」とか「その背中、花子です」とか声を出す。
地面は葉っぱだったり、砂利だったり、丸太の橋だったり、触って判別する。うぐいすが鳴いたり、みずのせせらぎが聴こえる。樹木の匂い、竹の匂いがする。
印象的だったのは、民家のちゃぶ台に野菜が置いてある(らしい)。それは何だろうと手をとると、触ってみて表面のでこぼこ具合や土っ気を感じ、匂ってみて甘くも酸っぱくもないことを感じる。で、じゃがいもだろうと思った。でも逆に、明るい空間でじゃがいもを想像してみると、ただ形と色といった視覚情報だけで触感も匂いもイメージされない。だけど私の中には触感や匂いの情報が無意識に保存されてて、それが今回役立った。そのころがすごく不思議に思った。
声を出していてのどが渇いたころにバーに行く。普段は進んで飲まないくせに、ワインを頼んでみる。ちゃんとワイングラスに注がれてきた。グラスを揺らせて香りを楽しもうとしたけど、慣れてないせいか思ったほど嗅げなかった。味は、すんなり飲めたのでおそらく白ワインだったと思う。他にワインを頼んでる人がいなかったので、訊かれたら自信なくてどきどきしてた。
あとブランコをこいだ。二人乗りで背もたれがついてる。うちらの20分後にスタートした次の回のグループの声がした。別のグループの声がすると、自分たちのグループの声と混じって、ちょっと混乱し焦る。参加するなら最初か最後の回がいいね。
今こうして振り返るとあっという間の時間だった。もっとひとつひとつの動作に繊細に、じっくりと味わっていたかった気がする。でも事前に思っていたよりも、視覚のない世界でもいろいろなことができて、味わえるものだと思った。決して闇が怖いわけでも不自由なわけでもない。
ぜひとも、もいちど行ってみたい。同じコースだと新鮮さがないし、他の参加者より有利になっちゃうから、7月以降の第2期かな。
アテンドもそれ以外のスタッフもしっかりと教育され、プログラムのマネージメント、オーガナイズ、ファシリテートが利いてて、とてもよかった。こういう能力ってすごく大事。そして、このような企画をプロデュースして、継続していく活動もすごく大事。わたしはそういう人を応援したい、支援したい。
もともと私はど近眼で、メガネがないと正常な生活を送れなくて、だから視覚障害というものにも関心があった。以前から盲導犬にも興味があって募金してる。だから今回の企画をみたときはソッコーで応募した。